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大元師、新作を斬る!高橋良輔監督が語る新たな『ボトムズ』の地平


「ボトムズフェスティバル」で3本の新作が順次イベント上映され、加えて『幻影篇』も絶賛リリース中! 2010年秋、『ボトムズ』は過去最高の盛り上がりを見せている。そこで今回は、『ボトムズ』シリーズの総監督である高橋良氏にスペシャル・インタビューを敢行! その手から巣立った『装甲騎兵ボトムズCase;IRVINE』、『ボトムズファインダー』の2作品と、ご自身の手になる『狐影再び』、『幻影篇』について、さらには『ボトムズ』の向かう未来について、存分に語っていただいた。

御大よりの至上命令
「スキに作ってください!」???


――まず、一連の「新作ボトムズ」の企画は、高橋監督にはどういう経緯でお話しがあったのでしょうか?

高橋:『ボトムズ』というコンテンツのリニューアル案は、サンライズ ボトムズスタジオの参謀本部(※1)で出たのが最初ですね。プロデューサー陣も僕の世代よりずっと若返ってることですし、「せっかくだから、ボトムズに新しいコンテンツを切り拓こう!」という話でした。

――その時点で、今回最大のトピックである「高橋良輔以外の監督がボトムズ作品を手がける」ことも?

高橋:決まっていました。ただ僕自身は、ちっとも抵抗ありませんでしたけどね。もともと僕は原作とか監督でクレジットされることが多いんですけど、じゃあホントに僕の原作なのかって言うと、いわゆる出版界での原作とは、だいぶ違うと思っていましたから。むしろどんな作品も、その時々のスタッフと一緒に作り上げているという感覚が強いので、新しい才能が加わってくれるなら「ぜひどうぞ!」と。

――では『装甲騎兵ボトムズCase;IRVINE』と『ボトムズファインダー』の作品内容について、高橋監督からのサジェスチョンはなかったんですか?

高橋:まったくありません! むしろ僕は、自分でひとつ方針を決めていたんですよ。周りからは「良輔さんらしい」と言われちゃったんだけど、要するに「何も言わないんで、勝手にやって!」と(笑)。
 これにはふたつ理由があって、ひとつにはこう言っておけば、僕は働かなくてイイでしょ?(笑)もうひとつには、やっぱり関わってしまうと誰でも意見は言いますし、言われたほうは影響を受けるじゃないですか。そうすると、「ボトムズ新生」という一番最初の志が、ひ弱なものになるかもしれない。それで「好きにやってください」ということにしたわけです。

――なるほど。過去には同じ高橋監督以外のボトムズ作品として『機甲猟兵メロウリンク』(※2)がありましたが、あの時ともまた違ったスタンスだった、と。

高橋:『メロウリンク』は、最初からボトムズのサイドストーリーとして、いわば身内で作ったような作品ですからね。監督も『太陽の牙ダグラム』でご一緒した同世代の神田さん(※3)だし。言ってみれば、僕のボトムズが「A」なら「A´」のようなモノです。今回は資質も世代もまったく違いますから、より新鮮に仕上がっていると思いますよ。

愛と自由な発想が生んだ好対照の新生ボトムズ

――それでは、早速その2作品について、個別に印象を伺いたいと思います。まずは『装甲騎兵ボトムズCase;IRVINE』ですが、こちらは世界設定が今までのボトムズと共通ですね?

高橋:ええ。それだけに作り手の人がね、予想に反してボトムズのある部分を……自分が元の作品を作ってるから言いにくいんだけど、勉強し尽くして作ってるんですよ!(笑)もう「そこまでボトムズっぽくなくてもイイのに」と思っちゃうぐらい。



――確かに目立つ部分だけを拾っても、オリジナルへのリスペクトを感じさせますね。「バトリングは所詮遊びだ」ってセリフとか、アービンの人物造形にしても、ある部分はキリコと韻を踏んでいますし。

高橋:面白いことに、これはビジュアルの印象も同じなんですよ。たぶん古くからのファンの方は、まずキャラクターなどの絵柄に驚かれると思うんです。僕も最初は「今風だなぁ」と思ってたんですけど、観ていくうちに「これ、塩山さんのキャラクターみたいじゃない?」っていう、妙な錯覚を受けました。もちろん絵柄は全然違うんだけど、塩山さんが描いた絵を、いま30歳前後のアニメーターさんたちがリライトしたらこうなるのかな? というような。

――確かに違和感がまったくないどころか「ああ、ちゃんとボトムズだ!」と思わされましたね。むしろギャップが大きいのは、世界設定まで一新した『ボトムズファインダー』のほうでしょうか?

高橋:こちらは世界設定ももちろん面白いんですが、どうも重田敦司監督は、そのへんは「あんまり描かないでもイイんだよ!」と、思っていらしたんじゃないかな? むしろ自分なりのボトムズメカアクションを、やりたかったように感じましたね。「ボトムズのATをこの世界でもう少し発展させた、メカアクションはこうなんじゃないか?」っていう提案が、随所に見受けられましたから。

――At(※4)たちは全身ギミックだからけで、しかもそのどれもが「スコープドッグを参考にして、ココにもつけてみました!」という感じでしたしね。

高橋:そうそう! で、そのAtが、ほとんどワイヤーアクションみたいな勢いで、すごくキレのいいアクションを演じていたでしょ? あのへんは大きな見せ場になっていましたね。



「ボトムズらしさ」にルールはない!?
盛り上がれ、世代間抗争!


――そうしてみると、「スキにやって!」という方針を受けて、わりと対照的な作品が仕上がってきたという印象ですか?

高橋:そうですね。おかげでボトムズという作品の幅が、大きく広がったと思います。
これまで『ボトムズ』は、細々とではありますが、28年コンテンツとして生きてきました。それだけに、古くからのファンは根強くいらっしゃるんですが、そんなファンの皆さんが愛する『ボトムズ』は、ひとつだったわけですよ。一方あくまで夢物語として比べるなら、『ガンダム』という名の作品群は、いまや枝葉が広がって一本の大木のようでしょ? 言わば『ボトムズ』は、やっと木の枝が3本に広がったという感じかな。
 で、これが何を意味するのかと言いますと、遂に我らがボトムズファンも、世代間闘争を楽しめる日が来たわけです!(笑)40代のファンと20代のファンが「お前のボトムズと俺のボトムズは違う!」って言い合えるのは、やっぱり楽しいでしょ? 28年間『ボトムズ』を応援し続けて下さったファンの皆さんも、ずっと望んでたんじゃないかな。

――確かに!(笑)ただその一方、今後その枝が増えいくと、「それ誰が見てもボトムズじゃねぇだろ!」という辺りにまで、枝葉が広がっていく可能性もありますよね? 監督ご自身としては、「ココまでだったらボトムズだ!」という指針はありますか?

高橋:うーん……ない!

――ないんですかっ!?

高橋:これは『ボトムズ』に限った話ではないんだけど、僕は口が軽いもんだから、「いまこんな企画を考えてるんだ」とか、すぐ喋っちゃうんですよ。そうすると周りの人が「それ言っちゃマズいでしょ! 企画盗まれますよ?」と心配してくれるんですが、そのたびに「大丈夫」って言うんです。「企画が同じでも作り手が違えば、全然違うものになるから」って。
 逆に言うと、僕が少しでも関わった作品では、自分らしさにこだわりますし、そこには必ず「あ、これ良輔さんが作ったヤツでしょ?」と分かる、「臭い」のようなモノが残るんです。もちろん『ボトムズ』も同じだし、僕はそれでいいと思うんですね。

――つまり、ご自身も含めた各々の作家さんが、それぞれの作品でそれぞれの「ボトムズらしさ」を提示すればいい、と?

高橋:ええ。誰が参加してくれても構わないし、「キリコが出てなきゃボトムズじゃない」とか、一切思ってませんね(笑)。

拓かれたボトムズの未来
その「元年」を見逃すな!


――では、ご自身が関わっておられる『孤影再び』に関しては?

高橋:実はこれも、僕よりは脚本と絵コンテを担当している池田成君のカラーが大きく出ています。ここ10年ぐらいの作品では、僕はコンテを細かくチェックするようなレベルでの「監督」と言うより、もっと大まかな部分で物語や絵の方向性の指示する、いわば「原作プロデューサー」的な演出スタンスなんですよ。『幻影篇』と『孤影再び』も同様で、『Case;IRVINE』や『ボトムズファインダー』では一言も言わなかった。つまり『孤影』は「材料もちゃんと揃えたんだから、文句言わずにいいモノ作ってね!」ということですね。そうすると池田君は「文句なんか言わせませんよ!」って、頑張って作ってくれるし(笑)。

――その「材料」として、今回監督が提示されたのはどんなことだったのでしょう?

高橋:僕がやりたかったのは、大きく言うと3つです。ひとつはフィアナの生存に関して、ちゃんと可能性を残すこと。そこに生命の鼓動があるかどうかは分からないけど、映像的に顔も身体も崩れないいまま、宇宙を漂っているのを見せておこうと。マンガの世界なら、これで幾らでも再生が効きますしね(笑)。
 もうひとつは、『赫奕たる異端』のラストでキリコを追いかけていたテイタニアのドラマに、ちゃんと決着をつけること。ただ、キリコは彼女とうまくいくようなキャラクターでは間違ってもないし、さりとて彼女の想いは、多少なりとも汲んであげたかった。そこは非常に難しかったんですが、池田君は見事にやりきったと思いますね。



――あのラストは、観たら絶対泣きますよね!(笑)

高橋:やはり振り返ってみると、過去の『ボトムズ』には人間の優しさっていうのが、少なからず表現されていたんですよね。バニラやゴウトやココナたちは、それぞれが少しずつズレていて、ぴたっと同じ気持ちというわけではないんだけど、それでも優しさを発揮できる。キリコもほかのヤツには愛情表現なんかほとんどしないんだけど、やっぱり彼らやフィアナに対しては違いますし。彼らのそういう部分だけは、守ってやりたかったんです。だから3つ目として、あの3人を始めとするレギュラーたちが、いまもキリコとつながっているのは、見せておきたかった。
 やっぱりエンターテインメントは、甘くていいんですよ。観ててドーンと落ち込むんじゃなく、ラストはやっぱり救われたほうがいいと思うんですよね。

――ただ一方、そうした懐かしさだけでなく、この2作品はキリコの未来にも、含みを残していますが?

高橋:確かに物語の結末に関して、一種「芽は作った」部分はありますね。これまで僕の作品には、どこかに「父を超える息子」というテーマが表れていたんです。それを反転させて、主人公が今度は越えられる側になるというのも面白いかな、と。それを受けて、誰かが「あの続きを作りたい」と言うのなら、ぜひお願いしたいですね(笑)。

――えぇ!? ご自分でお作りになるんじゃなく、ですか?

高橋:いえ、作るのが僕じゃないとは言いませんけど、少なくともTVシリーズのような関わり方は、もう無理ですから。一応「僕が作るなら、こういう話になるな」という感触はあるんですけど、いまはまだ新章の冒頭2話を作って「道筋をつけました」というところです。ここからどんな誰が物語を続けていくのかは、僕にもわかりません。

――なるほど。いずれにせよ、キリコの物語も「新しいボトムズ」も、まだまだこれからというわけですね

高橋:その通りです! 28年間『ボトムズ』を作り続けてきて、「僕もボトムズやってみたかったんですよ」という方にはたくさん出会ってきましたが、とにかくそういう方のなかから、現実に2本作った人が、やっと出たわけですからね。おかげでこれからも、一味違う『ボトムズ』が生まれてくる可能性が見えてきました。いまは正に、その元年ですよ。古くからのファンの方も、新しいファンの方も、この瞬間は見逃さないで欲しいと思います。



■高橋監督プロフィール
高橋良輔(たかはし りょうすけ)
1943年東京生まれ。言わずと知れた『装甲騎兵ボトムズ』総監督。1964年に虫プロダクションへ入社してアニメーション演出家としてのキャリアをスタートし、日本サンライズ(現サンライズ)創業初期に「ゼロテスター」(監督/1973)に参加。神田武幸氏と共同監督を務めた『太陽の牙ダグラム』(1981)で、リアルロボットアニメの旗手としてブレイクを果たし、以降『装甲騎兵ボトムズ』(1983)、『機甲界ガリアン』(1984)、『蒼き流星SPTレイズナー』(1985)などの作品を経て、「高橋アニメ」というブランドを築くに至る。自作のノベライズを中心に小説家としての顔も持つほか、現在は大阪芸術大学で後進の指導にも精力的に活動中。

*1:もちろん通称。実際にこんな部署があるわけではないが、『ボトムズ』の制作スタッフだけは、サンライズのボトムズスタジオをこう呼び習わしている。
*2:『装甲騎兵ボトムズ』の外伝OVA作品(1988)。全12話。謀殺された仲間の復讐を誓い、生身でATと戦う機甲猟兵、メロウリンクの活躍を描く。『装甲騎兵ボトムズCase;IRVINE』以前では、唯一キリコを主人公としない『ボトムズ』作品であった。
*3:アニメーション監督、神田武幸氏のこと。高橋監督とは古くからの盟友で『太陽の牙ダグラム』(1981)の共同監督を務めたほか、仕事のあとの酒宴でも無数の杯を酌み交わしたとか。1996年、52歳の若さで惜しまれながら急逝。
*4:『ボトムズファインダー』に登場するロボット。オリジナル『ボトムズ』のAT(アーマードトルーパー)と異なり、Tが小文字の「At」表記で、呼び名も「エーティー」ではなく「アルトロ」である。

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